親が認知症になった時、親名義の不動産を売却するにはどうすれば良い?

実家に住まれている親御さんが認知症になったことを契機に、同居したり、老人ホームに入居したりするなどして実家に誰も住まなくなることもあるでしょう。

こうしたケースで実家を売却しようとすると、認知症であることから手続きがとても複雑になります。

今回は、名義人が認知症になってしまった時の不動産の売却についてお伝えします。

■親が認知症になった時の不動産売却

親が認知症になってしまって、実家に一人で済ませておくのも心配。

老人ホームへの入居などに備えて、まとまった資金も必要だ。

こうしたケースで実家を売却しようと考えた際、通常の不動産売却と同じ方法で売却することはできません。

認知症の人は意思能力がないと判断され、不動産売買契約を締結してもその売買契約は無効となってしまうからです。

認知症の人が不動産売買契約を結び、買主に所有権が移転したとしても、そもそも不動産売買契約は無効のため、元の売主に名義を戻す必要が生じます。

しかし、これでは実家を売却することができなくなってしまいます。

このようなケースではどうすれば良いのでしょうか?

■まずは医師に相談

認知症といっても、状況はさまざまです。
まだお医者さんに診てもらっていない場合はまずは診断してもらいましょう。

●医師の診断で意思能力が判明すれば問題ない

お医者さんに診断してもらって、意思能力があると診断してもらえば問題ありません。
通常の不動産売却と同じように手続きを済ませることができます。

一方、意思能力がないと判断された場合も、後々の手続きでお医者さんの診断書が必要になります。

親御さんが認知症と診断された上で実家の売却をしたい場合には成年後見人を立てる必要がありますが、そのための手続きに診断書が必要なのです。

■成年後見人をつけて不動産を売却する

親御さんが認知症と診断されると、通常の方法で不動産売却をしても無効とされてしまいます。
認知症と診断された場合は、親御さんに成年後見人をつけて不動産売却を進める必要があります。

●成年後見人とは?

成年後見制度は、認知症など判断能力が不十分な人に対して、裁判所が選任した成年後見人が、本人の代わりに法律的手続きを行うというものです。

成年後見人の候補者は申立人が選ぶこともできますが、その候補者が成年後見人になれるかどうかは裁判所が判断します。

場合によっては、裁判所が決める司法書士や弁護士など、全く知らない人が選ばれることもあります。

内閣府の平成29年4月「成年後見制度の現状」によると、親族が成年後見人に選ばれた割合は全体の28.1%、親族以外の第三者が選ばれた割合は全体の71.9%と第三者が選ばれる割合の方が多く、また司法書士が1番、弁護士が2番目に多くなっています。

●家庭裁判所への申し立て

成年後見人を選任するには、家庭裁判所に申し立てする必要がありますが、申立時には医師から認知症であると診断された診断書が必要となります。
また、申し立てできる人は配偶者や4親等内の親族等と定められています。

●成年後見人に選ばれたら財産目録を作る

家庭裁判所への申立がなされると1〜2ヶ月程度の期間の後、成年後見人が選出されます。
成年後見人に選出された人は、年に1回財産目録を作って家庭裁判所に報告書を提出する必要があります。

●居住用不動産の売却には別途申立が必要

売却する不動産が、認知症になった人が居住していた不動産であった場合には、別途、家庭裁判所に対して居住用不動産処分許可の申立を行う必要があります。

●売却には正当な事由が必要

成年後見人が不動産を売却するのには正当な事由が必要です。
本人の意思能力がないことを理由に、好き勝手に売却されては困るからです。

具体的には、本人が老人ホームに入居するための費用としてや、実家の防犯や管理の問題などが正当な事由となりえます。

実家の場合は、一度老人ホームに入っても、将来認知症が回復した際には実家に戻るケースも含めて、家庭裁判所が判断を下します。

■任意後見制度や民事信託で事前に準備しておくこともできる

認知症になってしまった後、その人の不動産を売却するのには、法定後見人を選任するしか方法がありません。

しかし、認知症になる前に準備しておくこともできます。

●任意後見制度とは

任意後見制度は、認知症になった時など、判断能力がなくなった時に備えて、後見人や委任する仕事の内容を決めておくことのできる制度です。

法定後見制度と比べて、委任者(この場合、親御さん)の意思を尊重できる制度だと言えるでしょう。

●民事信託とは

民事信託は、自分の財産をあらかじめ誰にどのような目的で、いつ渡すかなど事前に決めて契約しておくことで、その条件が成立した際にその財産を管理できる権利を相手に渡すことのできる、というものです。

この民事信託をあらかじめ親御さんと長男など、子供のうち誰かとで結んでおけば、親御さんが認知症になった時に、委任された子供は成年後見制度を利用せずとも自由に不動産を売却することが可能になります。

■不動産会社の担当者からサポートを受けよう

認知症になった親御さんを老人ホームなどに入れ、実家を売却することになった際、主に売却の手続きを依頼するのは司法書士となります。

身近に信頼できる司法書士の方がいる場合は、直接その方に相談しても良いでしょ。

そうでない場合は、まずは不動産会社に相談すれば、経験のある司法書士や弁護士を紹介してもらうことができるでしょう。

■まとめ

親御さんが認知症になってしまい、実家の売却を進めることになった場合には成年後見制度が唯一の売却の手段となります。

その手続きは少々複雑なため、司法書士や不動産会社の担当者など、信頼できる方を見つけてサポートを受けることをオススメします。

また、将来、親御さんが認知症になった時に備えて任意後見や民事信託を契約しておけば万全でしょう。

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瀬川【山形不動産売却研究所】主任研究員

投稿者プロフィール

宅地建物取引士、FP2級技能士(AFP)資格を持っています。

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